掌編・短編小説

[3分で読める] 表現者、厄介者に絡まれる [掌編小説]

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 普段は真ん丸なAくんは、時々形を変えてみます。
 三角、四角、星形、ドーナツ……。
 彼は自分の感情に素直に従い、様々な表現を行うのです。

 喜んでいるときは、ハート形。
 怒っているときは、トゲトゲ。
 哀しんでるときは、涙のマネ。
 楽しんでるときは、体を分裂。

 そんなAくんは、日々練習を怠りません。
 自分の限界に常に挑戦し続けます。
 今度はどんな風に表してみよう。

 時がたち、Aくんはみんなの人気者になりました。
 Aくんの芸術に魅了されたのです。
 ぼくもあんな風になれたらなあ。
 子供なら誰しもがそう思うでしょう。

 そんなAくんのところにYくんが現れました。
「やい、Aよ」
 Yくんは今日もチャレンジを続けるAくんに話しかけました。
「そんな形をしているのを見たら、苦しむ奴らがいるのがわからないのか」
 そのときのAくんは満月となっていました。
 表面のデコボコや月の光の輝きを見事に再現しています。

「なんでぼくの格好を見て苦しむんだい?」
「なぜってお前、満月を見るのがトラウマになっている奴だっているだろう。<おおかみおとこ>の気持ちがわからないのか」
「じゃあ、彼らが見なきゃいいよ」
「そういうわけにはいかない。お前はテレビによく映るからな、見たくなくても目に入ってしまうんだ」
 Aくんは満月をやめました。

 次の日も、YくんがAくんのところにやってきました。
「やい、Aよ。そんなにいっぱいトゲをはやして、どういうつもりだ」
 Aくんは、精巧なイガグリになっていました。

「どういうことだい?」
「お前さあ、<せんたんきょうふしょう>の気持ち考えたことあるの?」
「えっ、ないよ」
「じゃあ、栗やウニのトゲトゲでケガをした者の気持ちは?」
「ううん」
「栗にあたって火傷をしたサルの気持ちは?」
「全然」
「ちょっとは考えろよな。お前を見るたびに、震え上がってるぜ」
 Aくんはイガグリをやめました。

 さらに次の日も、YくんがAくんを訪ねてきました。
「おい、Aよ。それはないだろう」
 Aくんは、太陽になっていました。
 でも、そんなにまぶしくないよ。

「それはないって、なんで?」
「だって、お前の姿を見たら、<ひきこもりたち>や<よるがた>の奴らがうんざりするだろ」
「えー、でも太陽の光を浴びるの気持ちいいよ」
「はい、<ろんてんずらし>。迷惑する者たちの気持ちを考えろ」
 Aくんは太陽をやめました。

 次の日も次の日もYくんはAくんのもとへやってきました。
 YくんはなんだかんだとAくんに言ってきます。
 Aくんは、誰も悲しませたくない一心で、レパートリーを減らしていったのでした。

 残り少なくなったAくんの作品。
 でも、Aくんはそれら一つ一つの精度を上げたり、色を変えたり、オリジナルな要素を加えたり、工夫をしていきました。
 そしてついにAくんは決心をしました。
 そうだ、コンテストに出てみよう!

 そこには数々の<ひょうげんしゃ>たちが集っていました。
 Aくんも舞台に立ちました。
「みんなー、応援よろしくねー」
 出せる力をすべて出したあと、<かんきゃく>に向かってアピールをしました。

 舞台を降りた後、待ち構えていたのはYくんでした。
「なんなの、お前? なんでみんながお前を応援しなきゃいけないの?」
「え?」
「応援よろしく、って言ったろ。お前、みんなに応援を<きょうせい>するのか」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃ……」
「俺にはそう聞こえたんだよ。ほら、謝れよ」
「ご、ごめん」
「俺じゃなくて、みんなに謝れよ」
「ご、ごめんなさい!」
「もう二度とふざけた真似をすんなよ」

 すっかり気勢をそがれたAくんは、コンテストを辞退することにしました。
 そして、これを最後にみんなの前から姿を消したのでした。

 みんなYくんの指示通りです。
 Aくんには何が足りなかったのでしょうね。

 おしまい
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