[長編] 魔法少女は誰かを愛しちゃダメなんですか

Ep. 03 スミノート:カブラギ通りの占い屋編

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 カブラギ通りにある、秘密の場所。
 私はここで、占い稼業を営んでいる。

 今日も迷えるお客さんがやってくる。

「失礼します」

 ドアが開き、中学生くらいのメガネをかけた少女が入ってきた。

「あの、ここ、占い屋って聞いて……」

「いかにも。ここは私のお店だよ。占いでも、人生相談でも、なんでも来いさ」

 私は、どうやら緊張しているらしいその少女を安心させるように、ニッコリと笑って言った。

「どうぞ、おかけよ」

 少女は椅子に座った。少しほっとした様子である。

「さあて、まずはお名前から聞こうか」

「はい」



「私は、スミと言います。今は中学2年生です。陸上部です」

「スミちゃん、というのかい。いい名前だね」

「ありがとうございます」

 スミが頭を下げ、

「それで、あの、占いってどうやって……?」

 急くように尋ねてきた。

「まあまあ、落ち着いて」

 私はわざとゆっくりとした口調で話し始めた。

「占いとはいうけどね、私には、ううん、誰にも、未来のことなんてわかりゃしないんだよ」

「え、それじゃあ、私がこれからどうすればいいのかも、わからないんですか?」

「ううん。それは違う。私には、未来は見えないけれど、過去を見通すことができるのさ」

「過去を?」

「そうさ。過去を知れば、未来がどうなるのかの予想もつくものさ。あくまで、予想だけどね。それをスミちゃんの役に立つ形で教えてあげるのが、私の仕事さね」

 スミは、私の言葉を頭の中で反芻しているのだろう。ぶつぶつと言葉を繰り返しつぶやいている。

「今はまだ、私の言っていることがわかる必要はないよ。今日は、スミちゃんに、分かりやすい形でスミちゃんの『道』を示してあげるからね」

 スミはこっくりと頷いた。



「じゃあ、スミちゃんの悩みを聞こうか」

「はい」

 一呼吸置いて、スミは話し出した。

「私、自分に自信がないんです」

「ほう」

「根暗だし、引っ込み思案なところもあるし、そんな自分を変えたいと思っているんです」

「ふむ」

 適度に相槌を打ちながら、相手の話を促す。

「何か、そう思ったきっかけはあるのかい?」

「私、先ほども言いました通り、陸上部に所属しています」

「うん」

「ある陸上の大会があったんです。その大会で、私、400mリレーの選手として選ばれてしまったんです」

「いいじゃないか」

「それが、よくなかったんです。私、その選手としての出場権を、同じ部の仲間に譲ってしまいましたから」

「譲った? 自ら?」

「はい。私が自分で決めて、譲ってしまいました」

「ふむ」

「そもそも、私が選ばれた原因は、私の短距離の成績が良いからではなかったんです。ただ単に、私が毎日まじめに部活に取り組んでいたからなんです。顧問の先生は、それを評価して、私を選んだんです」

「うん」

「私が出場権を譲った相手は、私と大して足の速さは変わらないんですけれども、生徒会の仕事をしていて、それで部活に毎日顔を出すことができなかったんです」

「ほう」

「だから、彼女は選ばれなかった。決して不真面目だったわけではないんです。ただ、顧問の先生は、毎日部活に来て頑張っている私の方を、選んだんです」



「でも、それでその生徒に譲ることにしたのは、なぜだい?」

「これが、先ほど言った通りで、自信がなかったからなんです」

「ふむ」

「私、何かに選ばれることを極端に嫌がる性格なんです。その大きな原因が、自信のなさなんです。私よりも、彼女が出た方がいい。彼女が出た方が、成功する。私なら失敗してしまう。私なんかが出ても、うまくやっていけない。いや、それ以前にプレッシャーに耐えられない。ああ、だめだ。選ばれたくない。いっそのこと辞退しよう。いつも、そうやって考えてしまうんです」

「うん」

「でも、それじゃだめだと思ったんです。こうやって、みすみすチャンスを逃すことを続けていれば、私は一生逃げ続けることになると思って。それで、そんな自分が嫌になって、自分を変えたいと強く願うようになったんです」

 スミは話し終えると、数秒間、目を閉じた。

 そして、目を開いた。強い決意がその目には宿っていた。



「それで、私は、どうしたらいいのでしょうか」

 私は、じっくりと時間をかけて、熟慮するふりをした。

 やがて、おもむろに口を開く。

「そうさね。スミちゃん、あんたは、自分で自分のことをよくわかっているみたいだ。良いことだよ。謙虚さも大事だ」

 静かにスミは一礼をした。

「私が思うに、スミちゃんには、スミちゃんをちゃんと見てくれる人が必要なんじゃないかな」

「私を、ちゃんと見てくれる人……」

「そう。そして、スミちゃんの考えを肯定してくれる人だ」

「そんな人、いるんでしょうか。顧問の先生だって、私が真面目だってことしか見ていません。多分、私の気持ちを話しても、通じないと思います」

「真面目なことだって、良いことだよ。だけど、それだけじゃなくて、スミちゃんを勇気づけてくれる人がいいんだよね」

「勇気……」

「うん。スミちゃんの自信のなさを理解して、なおかつ、それでもスミちゃんが前に進めるように勇気を与えてくれる人。スミちゃんの強いところも、弱いところも肯定して、励ましてくれる人さ」

「……占い屋さんには、心当たりがあるんですか」

「ふふっ。よくぞ聞いてくれたね」



 私は勿体ぶって、数秒の間をおいた。そして、

「私が、スミちゃんのそばに居てあげることができれば、それでもいいんだけどね。そうはいかない。そこで、だ。私は一人の人を紹介したいと思うんだよ」

 スミが身を乗り出す。

「それは、誰なんですか」

「ふふふ。多分、スミちゃんも聞いたことのある人だよ。連絡先を教えてあげるからね。あとで自分で連絡してみるといい」

 私は、予め用意していたその人物についてのメモを、スミに差し出した。

 スミは、メモを読んで、困ったような驚いたような顔をしていた。

「???(はてなはてなはてな)……?」

「おや、聞いたことはないかい? ここいらでは有名な魔法使いだよ」

 スミが、今度ははっきりと驚いた表情を見せた。

「ああ、もちろん、スミちゃんが魔法少女だってことも気づいていたよ」

「そう、だったんですか」

「うん。さあさ、行って、早速、連絡してみなさい。その人なら、きっとスミちゃんを手助けしてくれるはずだから」



 こうして、スミは???と出会ったのだった。
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