[長編] 魔法少女は誰かを愛しちゃダメなんですか

第4話 サークル・オブ・マジック

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 え、私が?一人で?勝負?

 い、いや、無理じゃないかな。ほら、メイ、メイもそう言ってよ。

 メイと目が合う。

「がんばって」

 メイが目線を下に逸らしながら言う。

 ええー、そりゃないよー。ほら、私の魔力が微々たるものだって、メイが一番よく知ってるはずじゃん。そんな私に戦え、と本当におっしゃるのですか。

「クッキー貸すから」

 クッキーかあ。確かにクッキーがいれば、防御面はかなり心強いけど……。

 メイの視線が私の首から胸に突き刺さる。

 ……もしかして私、期待されてる?

 ……。

 ……。

 ……。

 仕方ないなあ。他でもないメイの頼みだもんね。よし。いっちょやってやりますかあ。

 なんて。

 そんなに単純にはいかないけど、まあ、やるだけやってみるか。死にやしないし。



「わかったよ」

「よっし」

 アイがもう一度ガッツポーズする。

「そんじゃ、次はルールですね」

「えっと私、あんまり勝負とかしたことないんだけど……」

「あ、じゃあ、シンプルなやつでいきましょう。それから危険度が低めのやつで」

 え、危険度高めのルールもあるの!?

「こういうのはどうでしょう。半径5メートルの円を描きます。その中に対戦者二人が入って、互いに魔法をぶつけ合います。で、相手を外に出した方が勝ち。要は魔法を使った相撲みたいな感じですね。どうでしょう」

 魔法を使った相撲か……。それなら確かに、危険は少なそうだし、やることもわかりやすい。実際にどう動くかはこれから考えなきゃいけないけれど。

「……うん。わかった。それでいこう」

「いいんですか。やった。じゃあ早速、近くの公園にでも行きましょう」

「ちょっと。そのルール、アイに有利じゃない?」

 シズが抗議する。

「え、そうかなー」

 シズは少し不満気味だったが、結局のところ、了承したようだ。

 それにしても、アイに有利って……?



 勝負にちょうどいい草っ原の広場までやってきた。

「シズ、お願い」

 アイが頼むと、シズが目算で約半径5メートルのきれいなサークルを地面に描いた。

 性質変化の魔法だろうか。円周の草や地面が赤く色づいている。サークルは、本物の相撲の土俵よりもだいぶ広めである。

 ミミはそれを見ながら考えた。魔法の環、か。『魔法の相撲』っていうのもなんかぽくないし、この競技は『サークル・オブ・マジック』と名付けよう、うん。

 アイとミミはサークルの中央で2メートルほど距離を置いて向かい合った。

「相手の攻撃は僕が察知するから、ミミはそれを避けて」

 クッキーが耳元で囁く。

「頼りにしてるよ」

 ミミが頷く。

 アイがみんなに聞こえるように言う。

「あ、一応、ルールとして、直接相手に触れるのは禁止することにしますね」

「わかった」

「シズ」

「はいはい。では……、まずは準備をお願いします」

 アイとミミが互いに構え、精神を統一させる。アイは両手を下に下ろした状態。ミミは両手で大きめのボールを持っている態勢をとった。二人の周囲で魔力が渦巻く。傍目から見れば、その差は一目瞭然だろう。ミミの魔力は格段に劣っている。両者準備は整った。

「……よろしいですか。では、始め!」



 シズの号令とともに、即座にアイが動く。ぶらさげていた右手を下から右肩のあたりまで振り回した。

「風。横に」

 クッキーのささやきに従い、右にステップする。次の瞬間、左側ででゴオという音とともに強烈な風が通り過ぎて行った。

 初手は様子見といったところか。この距離で対応できたのだ。風の速度も威力も、実際のところ大したことはなさそうだ。

「また風。横に」

 さらに右にステップする。ふむふむ。相手はエネルギー変換魔法の使い手だろうか。

「次、面で来るよ」

 面でこられたら避けられないか。ミミは右手を前に突き出し、エネルギー散消を行う。風は弱まり、体にぶつかっても体勢を崩さずにいられた。

 この分なら相手の風を散消していけるな、と思っていると、

「うりゃ」

 何かの掛け声が聞こえたと思ったら、激化した風によっていつの間にか宙に浮いていた。散消によりやや勢力は衰えたものの、ミミを吹き飛ばすには十分だったようだ。数メートルは地面から離れているだろうか。そのまま後方へと飛ばされる。

 落下し、地面に衝突する直前身の危険を感じたが、下から吹く風で勢いが殺され、一回転してどうにか草の上に着地することができた。

 そこは、すでにサークルの外であった。



 呆気なく、決着がついてしまった。



「私の勝ち、ですね」

 アイの声がミミの耳に届いた。



 クッキーに顔があれば、多分、今、難しい顔をしているだろう。

 ミミはうなだれ、力無くその場に座り込んだ。そして、……自分の心の変化に戸惑っていた。



 なんだろう、この気持ち。ミミは考えた。なんだろう、これまであまり感じたことのなかった、この居心地の悪さは。

 ミミは勉強やスポーツはそこそこできる。そこそこなので、勝つこともあるが、他人に負けることも日常だ。だから、ミミは自分自身が負けることに慣れていると思っていた。そして、負けた時もヘラヘラ笑っていられた。どうせ私なんか、とおどけてふてくされてみせることだってできた。言ってしまえば、ミミはそれらの勉強やスポーツなどの活動に対して、プライドなど持っていなかったのだ。学校でのミミ、家でのミミはそうだった。勝ちたいと思えるライバルなどいなかった。適当に流していくだけの人生だった。だけど、今は……。



 今は、違う。



 なんだか、とても悔しい。これまで魔法で直接の勝負なんてしたことなかったし、どうせ自分なんてザコ魔力だし誰にも勝てるわけないと思っていた。しかし、実際に負けてみると、自分が、自分自身に対して、がっかりして、すごく、いらだっている。なぜだろう。なぜ、これは特別なんだろう。こんな勝負、お遊びじゃないか。そう思ってもみた。だが、心のモヤモヤは消えてくれない。後悔の念にも似たその感情は、ミミに考えることを要求した。



 敗因はなんだ?

 魔力差。それは確実に存在する。しかし、本当にそれだけか?

 なぜ全力を尽くさなかった?

 無策で勝てるはずがないだろうに。

 相手の攻撃を避け続けて、それでどうなる?

 魔力が尽きるなど期待はするな。こちらから一撃を食らわす必要があった。

 どうすれば勝てたのだ?

 何か方法があったはずだ。何か、相手の攻撃を阻止し、こちらが優位をとる方法が。

 では、次はどうする?

 うん、……決めた。

 勝算は?

 まだわからない。だけど、このままでは終われない。



 ボサボサになった髪を乱雑に元に戻しながら、ミミは立ち上がり、アイを見据え言った。

「もう一回だけ、勝負しよ」
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