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[中編] 禁忌の呪文、魂の行方

[中編] 禁忌の呪文、魂の行方( 10 of 13 )

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 右隣に人の気配がした。
 目を閉じていてもわかる。呼吸、衣擦れの音。たまにこちらの顔を覗き込んだ時は、瞼を通して光が遮られるのがわかった。その人の発する熱のためか、わずかに温度も高い気がする。それから、鼻の奥を突くような薬品の匂い。
 胸を打つ音がする。定期的にリズムを刻むように、力強く脈打っている。懐かしいような少し怖いようなそんな気持ちになる。心臓の音が気になって眠れないことがあったっけ。
 右手の先に何かが触れた。右にいる人の手だろうか。かさついている。でも、暖かい。
 胸から下、足元まで何も身に着けていないらしい。裸の上には直接シーツのような布がかけられているようだ。かすかな重みを感じる。
「――頼む」
 小さくつぶやくような声。大人の男の声だった。
「目を開けてくれ、パレット――!」
 必死に願うその声に、パレットの頭は急速に回転を始めた。ずっと封じられてきた箱が開くかのように、様々な思念が飛び出ては脳内を駆け巡り始める。
 目を開いた。
 予想通りだった。パレットの顔を上から覗き込んでいる人物は、長い金色の髪をもつ、三十後半から四十歳の男だった。鼻の両脇に刻まれている深いしわが目立っている。こちらを見る目は大きく開き、驚きにあふれていた。それから、男の表情は和らいだ。目の横にしわを寄せ、まるで愛しいものを見るかのように目を細めた。
「……ああ、なんて言えばいいんだろう。僕はずっと考えてきたんだ。だけど、」
 口元に手を当てると、今度は嗚咽を漏らしだした。
 男が泣き止むまで、ずいぶんと長い時間が必要だった。
 天井は白い。ポツポツと不規則な傷のような、穴のような模様が入っている。
 視線を巡らすと、どうやら自分がベッドの上に横たわっているらしいことがわかった。大して広くはない部屋。他には何も置かれていない。その代わりに、四方を囲む白い壁の一面には円を描くように黒い文字が何重にもわたって綴られていた。
 なんとなく、それに見覚えがある気がした。
 右の人物に視線を戻す。
 そのときにはすでに、パレットは、目の前にいる男性が何者であるのか、自分が一体どんな状況におかれているのか、おおよそ理解をしていたのだった。
 やっと落ち着いたのだろうか。男は白の袖で目のあたりをこすり、ようやくこちらを見返した。
「久しぶりね、ヒコサ」
 パレットはそう言った。発音がぎこちないのは自分でもわかった。だが、そんなことはまったく関係なかったらしい。
 ヒコサの目からは、また新たな涙がこぼれ出てきた。

 与えられたワンピースのような衣服を着たパレットは、部屋を出て、なにやら建物の中を歩かされた。
 大きな建物だ、とパレットは思った。長く続く金属のように磨かれた廊下の果てはとても小さく、その左右の壁にはいくつもの色とりどりの扉が延々と並んでいる。
 ヒコサの後ろについて歩きながら、たまにガラス越しに見える部屋の様子を観察する。ヒコサと同じように白いローブを着た有象無象がわらわらと集まり、なにかを唱えるかのように口を動かしている。大きく手を振り回したり、身体を折り曲げたり反らせたり、体操でもしているかのような動作だ。
 すぐに疲労を覚えてしまった。どうやら私はずいぶんと永い眠りから覚めたようなので、この疲労はきっと運動不足のせいだろう。強張っている足をさすりながら歩く。
 そこで気づいた。自分の身体があの頃の、十四歳の少女のままであることに。
 身体が年を取っていないことについてパレットは疑問を抱いた。さっと、頭の中にいくつかの解答が思い浮かぶ。どれが正しいのだろうか。パレットが考えていると、
「ここだよ」
 ヒコサは白い扉を選び、開いた。中を覗き込んでみると、赤い絨毯がまず目に入った。部屋の奥には低いテーブルとその両隣りにベッドにも似た椅子のような形状のものが置いてある。
「かけておくれ」
 言われた通り、その椅子のようなものに恐る恐る腰かけると、ずぶんと体が沈んだ。非常に柔らかい椅子なのだなあ、なんてことをパレットは考えていた。そしてとっても気持ちがいい。
 ヒコサはパレットの真正面に座った。
「ああ、そうだ、飲み物でも淹れよう」
「ありがと」
 このような会話がいちいち嬉しいらしい。笑みを見せるヒコサ。その手にはいつの間にか陶器のカップがふたつ握られていた。空中から取り出したとしか思えなかった。
「魔法なの?」
「そうだよ。今のは君をちょっとだけ驚かせるつもりだったんだけど、あんまりびっくりしていないみたいだね」
 なんとなく知っていたような気がするのだった。多分、今の私はあらゆることに対して容易に動じたりはしないだろう。
「さて、パレット。まずは君が心を取り戻したことに乾杯しよう」
「ええ」
 二人、軽くカップを触れ合わせる。
 のどを潤したのは、甘いなにかの実の果汁のようだった。全て飲み干したあと、テーブルの上にカップを置いた。
「さっそくだけど、」
「聞かせてくれるのね?」
 ヒコサを遮り、パレットは尋ねた。
 ヒコサはうなずいた。
「これまでのことを、ね」

「パレット、君があのとき、あの林の中で、ある魔法にかかってしまったことはきっと覚えていると思う」
「ヒトカタ化の魔法ね」
「そうだ。そのときから君は心を失ったんだ。いや、魂を失ったと言ったほうが正確だろうね。どこか僕らが普通じゃ到達できないような場所へと、君の魂は飛んで行ってしまった。それからの君は――わかっていると思うけど――まるで操り人形のようだった」
「ええ」
 パレットはうなずいた。魂が無くなっていたというその期間を除けば、パレットの記憶ははっきりしている。そして魂が抜けだしていた期間のことすら、パレットは思い出すことができるのだった。ただし、それはまず間違いなくこの世界でのことではなかったのだが。
「これはそれから先の物語だ。僕らは君を取り戻すための旅に出た。僕らというのはもちろん、僕とネロウのことだ」
「ネロウ――!」
 ついさきほどまで何に対しても動じないだろうと思っていたパレットは、その名前に、いとも簡単に不意を突かれた。そのまま固まってしまう。決して忘れていたわけではない。目を覚ましたときから、二人の少年の姿が頭の中に浮かんではいたのだ。この動揺は、今ここにネロウ本人が不在であるという事実を受け止めることを、無意識のうちに避けてきた結果だった。
「ネロウは、どう、なったの? なぜ、ここに、いないの?」
 震える声で、おそらく知りたくない事実を確かめる。ヒコサが目を伏せて言った。
「事情はこれから詳しく話そうと思うけど、まずは結論から言おう」
 一拍、間が空いた。
「ネロウは死んだよ。半年前のことだ。――僕が、手を下した」
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