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[中編] 禁忌の呪文、魂の行方

[中編] 禁忌の呪文、魂の行方( 5 of 13 )

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 パレットはなぜか、石板がもともと置いてあった場所へとネロウを連れてきた。あの木や草が生えていない円形のスペースである。今や白い文字はほとんど確認できなくなっている。ここに来るまでの間、パレットは黙ったままだった。その表情が少し怖くて、ネロウも言葉を一言も発することはなかった。
 先導していたパレットが振り返って言った。
「ちょっと、そのトカゲに何か命令してみて」
 興味を持ってくれたのだろうか。だとすればこんなにうれしいことはない。しかし、パレットの顔を見る限りでは、どうもそういうことではないらしい。
「わかった」
 ネロウはポケットからトカゲを取り出し、しゃがんで地面に置いた。日の光を浴びて、トカゲの体表はぬらぬらと光っている。ネロウはトカゲに呼びかけた。
「俺の周りを三周ぐるぐると回ってくれないか」
 トカゲは走り出した。言われた通り、ネロウのしゃがんでいる位置を中心として、その周りを時計回りに回る。きっかり三周でトカゲは足を止め、地面に這いつくばって待機し始めた。
「どうかな。こんな感じで全然危なくはないと思うんだけど」
 ネロウは立ち上がり、恐る恐るパレットに伝えてみる。これでパレットも安心してくれるといいんだけど。
 ところが、パレットの顔はまるで脅えているかのように色を失っていた。
「ど、どうしたの、パレット?」
 パレットが口を開いた。かすかに震えている気がする。
「い、今、何て言ったの、ネロウ?」
「え?」
「そのトカゲに、一体なんて命令したの?」
 ネロウは心中で首をかしげた。パレットには聞こえていなかったのだろうか?
「いや、三回俺の周りを周ってって言っただけだけど」
 硬い表情のままパレットはうなずいた。ネロウには何が何だかよくわからない。
「ネロウは自覚してないんだね……」
「何を?」
「ネロウがそのトカゲに命令するときの言葉、共通語じゃなかった。パピル語だったの」
 初めは、パレットが何を言っているのかわからなかった。数瞬後、言葉の意味を理解すると、今度はネロウが動揺する番となった。
「俺、普通に話してるつもりだったけど。え、どういうこと? パレットには俺がパピル語を話しているように聞こえたってこと?」
 パレットが弱弱しく首を振る。
「ううん。そう聞こえたんじゃなくて、実際にネロウがそう発音していたの。いや、もしかしたら声自体はネロウのものじゃないのかも」
 ますます訳が分からなくなった。
「つまりね、」
 言いにくそうにパレットが言葉を発する。
「ネロウは誰かに、あるいは石板自身に憑かれているんじゃないかって思うの」

「俺が憑かれている? そういえば、前にもそんなこと言っていたよな。憑かれているってそもそも何なんだ?」
 ネロウは混乱する頭で一つ一つ絡まった糸をほぐそうと試みた。パレットは問いに答える。
「魔法がかけられているものやそれ自身が魔力を宿しているものは、たまにそばにいる人に憑りつくことがあって、憑りつかれた人は、その憑いた何者かによって言動を支配されるようになるの。ネロウは無意識のうちにパピル語で命令を下したと思うんだけど、ネロウのパピル語の知識から考えてもあり得ないと思う。だから、私は、ネロウがすでに何かに憑かれてしまっているんじゃないかって考えたの。誰か、何者かに、その命令を言わされているんじゃないかって」
 ネロウは呆然と立ち尽くした。
「俺が、誰かに操られているってこと?」
 ぎこちなくパレットはうなずいた。
「それじゃ、まるで、俺がヒトカタになっているみたいじゃないか!」
 ネロウは知らず大きな声を出してしまった。パレットがびくっと身を震わせる。
「あ、驚かせてごめん。でも、俺は俺だよ。操られてなんかいない」
 両腕で自身の体を抱きしめているパレットは、怖いものを見るような目でネロウを見ていた。脅えながらもパレットの話は続く。
「うちの村や西の国は魔法技術に疎いから、あまり魔法に関する知識は広まってはいないけれど、東の方では、憑かれるっていう現象は割と一般的にあるみたいなの。だから、ね。ネロウがおかしいんじゃなくて、石板のせいなんだよ。やっぱりあの石板には触れてはいけなかったの。思えば、私があの石板を発見してネロウたちの基地まで引き摺って行ったのだって、私自身が憑かれていたからなのかもしれない。そう思うと、私、すごく怖くなる。だから、ネロウ、もう止めようよ」
 パレットが最後のセリフを言い終わったあと、沈黙が場を支配した。ネロウはその場に立ち尽くしたまま、しばらくの間顔を伏せていた。足元では、トカゲが次の命令はまだかと待機している。落ち着いて、頭の中をゆっくりと整理する。
「……わかった。もう石板を使うのは止める。このトカゲも野生に返すよ」
 再びネロウはしゃがみこみ、トカゲに言った。
「お前、もう行っていいぞ。俺の言うとおりに動かなくてもいい。自由に生きていいんだ」
 やはりパレットにはこれがパピル語に聞こえたのだろうか。そんなことを考えていると、トカゲはそそくさとその場を去っていき、林の中へと入っていった。
「これでいいだろ?」
 ネロウはパレットを見た。
「ありがとう、ネロウ」
 ようやくのこと、パレットは目を細めて笑った。久しぶりにその笑顔を見た気がする。ネロウは石板や魔法のことなど、もうどうでもいい気になっていた。
「戻ろうぜ、基地まで」
 ヒコサに謝らなければならない。そう考えると、少し気が重くなる。
「ネロウのせいじゃないんだよ。だから、私もヒコサに一緒に謝るよ。もともとは石板を持ち込んだ私のせいかもしれないんだし」
 ネロウの陰りを察したのか、パレットが慰めるように言った。ネロウはそのことがとてもうれしかった。

 基地に帰る途中、パレットとネロウはあの場所にあった円形に書かれていた白い文字のことについて話をした。前にネロウが報告したときは、パレットはその存在を知らなかったようだ。今日改めて見てみると、ほとんど消えて見えなくなっていたが、パレットはそれがなんなのかおおよその予想はついたらしい。
「あれは、多分だけど、東の国プリスタが使っている魔法言語なんじゃないかと思う」
「それってパピル語とは違うの?」
「パピル語も魔法言語だけど、あくまで古代のものね。今は違う言語が魔法技術のために使われているの」
 パレットの解説は続く。なんとなくネロウの頭の片隅にもそのような知識があったのは、学校で習ったことがあるせいだろう。ほとんどその知識は抜けてしまってはいたが、パレットはそのことを責めたりはせず、淡々と授業を行うかのように話すのだった。
「もちろん、東の国でも、西の国でも、私たちが今使っている共通言語は使われている。でも、東には、それとは別に魔法専門の言語があるのね。それが魔法言語。で、あの円形のスペースに書かれていたっていう白い文字は、何らかの魔法を使った痕跡だと思うの。これは私の想像だけど、多分転移魔法が使われたんじゃないかと思う。プリスタの古い石板があんなところにあったことから考えても、これは妥当なんじゃないかな。つまり、もともとはプリスタに存在していたあの石板を、転移魔法により、何者かがこの林の中へ持ってきたってわけ」
「ふうん。でも、なんでわざわざ持ってきたんだろう? よりによってこんな田舎の林の中に?」
「それはわからないわ。何か意図があったのか、それともただ運ぶものを間違えてしまっただけなのか」
 パレットはそこで一旦区切り、少し考えてから言葉を続けた。
「いずれにせよ、あの石板は破壊してしまうのがいいんじゃないかと思うの。石板の存在が良いか悪いかはともかくとして、現に憑く能力を持っているのは確かみたいだから、放っておくと多分危険」
 この期に至っては、ネロウも同意見だった。なにせ自分が見知らぬ誰かに操られていたのかもしれないのである。
「そうだね、これもヒコサに話してみよう」
「ええ、それがいいと思う。きっと協力してくれるわ」
 基地が見えてきた。
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