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[中編] 禁忌の呪文、魂の行方

[中編] 禁忌の呪文、魂の行方( 4 of 13 )

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 家々が立ち並ぶ村の集落から離れるにつれ、闇は濃くなっていった。黒の空間に同化してしまったような感覚すら覚えるほど、何も見えない。自分がちゃんと歩けているのかどうかすらわからなってくる。踏みしめる地面の感触だけが、世界からの確かな反応だ。やわらかい土。草が脛をなでる。だが、不思議と恐怖心はなかった。行先はわかっている。何も見えなくても、ソレに呼び寄せられているかのように歩は進む。ネロウは獲物を逃がさぬよう両手で握りしめながら、一歩一歩着実に目標へと向かっていった。
 やがて林の中に入ったようだ。木々の存在は、それらが放つ微量の気配で察知できた。並び立つ木に頭と体をぶつけることなく、ネロウはすいすいと避けては進んでいく。空間に同化してしまったのなら、これくらい容易いことだ。先ほどまで暴れっぱなしだった獲物は、今は手の中で落ち着いていた。
 光が見えた気がした。石板が光を放っている。それは錯覚に過ぎなかったが、視覚がほぼ完全にシャットアウトされた暗闇の中で、まるで第六感が開花したかのように、その石板の存在がネロウにははっきりと感じられた。もうすぐだ。もうすぐで――。
 石板を前にネロウは地面に両膝をついていた。手の中の獲物、家で捕まえたトカゲは、ぐったりとして動かない。死んでしまっているわけではない。かすかな鼓動が感じられる。ネロウはそのトカゲを石板の直下に置いた。逃げる気配はなかった。
 さて、これからどうするんだったっけ――?
 そうだ。呪文を唱えるんだった。
 でも、どうやって?
 明かりを持ってきていなかったことをここに来て初めて悔いた。これでは石板が読めない。いや、それ以前の問題として、そもそも石板のパピル語を発音するだけの知識がネロウにはない。パレットの作った訳文があればなんとかなったかもしれないが……。
 ふいに我に帰った。俺は一体何をしているんだろうと、ネロウは思った。
 しかし、それも一瞬のことだった。ネロウの思考は瞬く間に闇に溶けていき、気づけば右手の人差し指を石板に掘られている文字にあてがっていた。
 頭の中に、いや、心の中に文字が流れ込んでくるのがわかった。パピル語とその発音までが耳のずっと奥の方で勝手に再生される。
 これなら、読める。初めから問題は何もなかったのだ。
 ネロウの口から、聞いたこともない太い声が発せられた。見知らぬ言葉が次々と喉の奥から絞り出されていった。

 夢を見ていたような気がする。家の床を這ってはトカゲを捕まえ、まるで夢遊病のように家を飛び出し、林の中の石板を前にひざまずいた。動かないトカゲを捧げ、知らない言葉が口から溢れ、それから、それから――。
 目を開けた。見覚えのある天井。自分の部屋だった。窓の外からは陽射しが降り注いでいる。ネロウはベッドの上に仰向けになっていた。
 寝ぼけ眼をこすり、上体を起こす。胸のあたりからなにかが落ちていき、ベッドの足元の方へと転がった。よく見ると、それは茶色のトカゲだった。縦に白く縞の模様が入っている。眠っているのだろうか、微動だにしない。
「あー」
 意味もなく声を出す。普段はこそこそ人から隠れようとしているのに、このトカゲ、今朝に限ってネロウと一緒にすやすやとベッドで眠っていたわけか。
 あくびが出る。
「起きろ、このベッドは俺の聖域だぞ」
 やはり頭がまだ完全に起きてはいなかったのだろう。トカゲが従うはずもない命令をつい口にしてしまった。頭をぼりぼりとかく。もう一度寝ようか。
 と、突然、トカゲがぴょんとはねた。ベッドの上から飛び降り、四足でささっと移動したかと思いきや、そのままベッドのすぐ隣にある棚をよじ登ってくる。棚の上部、ネロウの顔のすぐそばまでやってきて、四つん這いの態勢でじっとこちらを眺めている。
 ネロウはパチパチと瞬きをした。ある予想を立ててみる。半信半疑ながらも口を開いた。
「ちょっとお前、仰向けになってみろよ」
 トカゲはネロウの言うとおりにした。飛び跳ねたかと思うと、小刻みに動く白い腹を天井に向けたのだ。
 急速に夢の内容が脳裏に去来した。そして理解した。あれは夢ではない。現実だ。
 魔法は実際に発動したのだ。
 その結果、ヒトカタが生まれた。
 このトカゲが、ヒトカタ――。

 ネロウの予想はどうやら的中していたらしい。ヒトカタと化したトカゲは、ネロウの言うことは何でも聞く。もちろん、何でもとは言っても、そのトカゲにできる範囲内の話ではある。トカゲと話が出来たりすると面白いなあと思って会話を試みたものの、トカゲはうんともすんとも言わなかったし、魔法がかかっているのならと思い、空を飛ばせようとしたものの、やはりこれも叶わなかった。しかし、(ちぐはぐではあったが)ダンスを踊らせることには成功したし、(失敗したものの)宙返りせよとの命令も受け入れたし、どこそこへ行ってあれこれを持ってこいという指令に従わせることはできた(ただし、トカゲが扱える物の範囲で)。
 うーん、とネロウは唸った。
 今のところ全然危なくないし、これはひょっとすると、とても便利な使える魔法なのではないだろうか。
 アレコレ試しているうちに起床時間が過ぎてしまったので、学校へ行く支度を始めるも、頭の中はトカゲと魔法のことで一杯だった。
 まるでトカゲはネロウを主様と慕っているかのように、命令が下されるのを待機している。そんなトカゲをネロウはポケットに入れて、学校へと連れて行くことにした。
 ヒコサやパレットにも話してみようか。こんな魔法なら、ヒコサだって文句は言わないだろうし、パレットもきっと興味を持ってくれるに違いない。
 ネロウは晴れやかな気持ちで、学校へと急いで行った。

「危ないって言ったじゃないか。なんでそんなふうに軽く物事を考えるんだ」
「いや、でも結果オーライじゃん。ほら、全然危なくないし」
 放課後、ヒコサとパレットはすでに基地に来ていた。ネロウが昨夜の事情を放すと、ヒコサはすぐに眉間にしわを寄せて怒り出した。
「だいたい副作用がなんなのかわかってはいないんだろう。危なくないと決めつけるのは早計だ。まだ危険が判明していないだけかもしれない」
「悲観的だなあ。もうちょっと楽観視してみろよ。現に俺のこのトカゲは、俺の命令なら基本的に何でも聞くようになっているんだぜ。もし仮に危ないことになりそうだったら、俺が命令して止めさせればいいだけだろう」
「そうやって自分が物事を完全に制御できると思い込んでいるのが、そもそも間違いなんだ」
 ヒコサは聞く耳をもたなかった。ネロウのことを心配してくれているのは、過去の経験上からわかっている。しかし、こう真っ向から否定されると、ネロウも意地になってしまうのだった。
「なあ、なんでそんなに楯突くわけ? 何かヒコサに不都合でもあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、話は終わりだ。ヒコサはもう石板に関わんなくてもいいんじゃない? 俺は俺で楽しむつもりだから」
 心の中に刺さったまま抜けないトゲをさらに奥へと押し込んでいる、そんな気分だった。しかし、こう言い切ってしまった以上、もう後には引けない。今更、ごめんなさい、俺が間違っていました、なんて言えるはずがない。
 パレットのほうを窺うと、以前と同じくやはり悲しげな表情で二人のやり取りを見守っていた。また心に新たなトゲが刺さった気がした。
「ちょっと話し合おうよ」
 ヒコサが去って行ったあと、眉をひそめたままパレットが言った。
 ネロウには承諾する以外の選択肢はなかった。
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