掌編・短編小説

[4分で読める] 放浪部屋 [短編小説]

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「久々に家でゴロ寝できるわー。こーゆーとき、家事やってくれるひとがいて超助かるー。超楽ー」

 ちゃぶ台の向こう側で、香澄が言葉通りに寝転がり、ゴロゴロと右に左に回転している。女の私から見ても思わずドキッとしてしまうようなだらしない格好。Tシャツがめくれておへそがチラと見える。

「ていうかさー、滅多にないよね? 由梨とあたしがこうして一緒にリビングにいるのって」

「え? ああ、そうね」

「今日台風でマジ助かったわー。さすがにお財布ピンチだもんね。かといって断るのも忍びないし……」

 香澄は、本人いわく「夢を描く仕事」に就いている。二十代のちょうど半ば。私より二歳年下だ。バリバリ仕事をこなし、休日はガツガツと遊ぶタイプ。よくそんなにエネルギッシュに活動できるなあ、と私は常々思ってしまう。

 今日もやはり友達と遊ぶ予定だったらしいが、生憎この天気のため中止になったそうだ。

 数時間前から暴風雨が吹き荒れている。カーテンの外からは、窓や壁に重い流体が間断なくぶち当たる音。テレビの中では、異例異例のオンパレード。

 ふいに頭上で電気がちらついた。

 なんとなく、かすかにこの部屋自体が揺れている気がした。

 ちゃぶ台上のペットボトルに口をつける。ほのかに甘いイチゴの味。キャップを閉めて、台の上に戻す。

「昼はあまりものでなんとかするとして、夜はどーしよっかー。なんか頼むー? ピザとかさー」

 相変わらず薄い絨毯の上でゴロゴロしながら、今度は雑誌を手にしている。

「ピザかー」

 おうむ返しにつぶやく私の意識は、夕食には向かず、部屋の中を転がっていた。

「なんか配達する人が可哀そうな……」

「あー、そうだねー、台風だもんねー」

 サイレンが通り過ぎていく。救急車かな。

「んじゃー、私がコンビニにでも行ってこよーかー」

 香澄がちょいと台の上から顔を出した。少し眠そうな表情。

 視線が合った。ルームメイトの顔を真正面から見たのは、思えばいつ以来だろう?

「……ううん。あとで、私が行ってくるよ」

「ほんとにー? やったー。ありがとー、由梨ー」

 香澄の頭が台の下へと潜った。

 また、電気がちらついた。



 外は嵐。閉ざされた部屋。クローズドサークル。

 切り離された世界に二人きり。

 壁にもたれかかり、クッションを抱きかかえて、私はふとそんなことを考えた。

 廊下は暗い。節電のため、いつも電気を消している。二人の自室もいまは真っ暗。世界中でこのリビングだけが光を放っている。外の狂乱とは対照的に、部屋の中は香澄が床をこする音と、ペラと紙をめくる音だけ。

 と、私の目は、香澄が仰向けになって読んでいる雑誌の表紙を捉えた。

「あれ、香澄、それってさ、」

「ん? あー、」

 よっ、と上体を起こす。バッと読んでいたページを私に向けて広げた。

「へっへっへー。こないだ偶々見つけたから買っておいたのだよー」

「……うわあ、恥ずかしいなあ。目の前で読まれるなんて」

「いいじゃん、いいじゃん、面白いよー」

「そう言われると、ちょっと照れるな」

 ぎゅっとクッションを抱きしめた。相変わらず、部屋はなんだか揺れている。

「ほー、反応がかわいーなー」

 ニヤニヤ顔のまま再び潜水。ゴロゴロ再開。

「もう……、香澄ったら」



 時計を見ると、もう昼時だった。時間が流れるのが早い。

「あ、痛っ」

 香澄のおでこがちゃぶ台の足に激突したらしい。上半身を起こし、手で患部を抑えている。ゴロゴロしてれば、そりゃそうなるわ。反動で台上のペットボトルが倒れ、香澄の方へと転がっていった。

「お、お水もーらいっ」

 あっという間もなく、香澄はキャップを開けたペットボトルに口をつけ傾けた。ごくごくと一気に飲み干す。

 私は、自分の顔が熱を持ち始めるのを感じた。

「ぷはー、って。あれ、これ、なんか甘いよー! なんで!? 透明なのにあまーい!」

 香澄は目を丸くしてラベルを見つめ、商品のCMみたいな口上を述べている。

「……フレーバー水っていうんだって。最近流行ってるっぽい」

「へー。知らなかったー」

 ん? と私の視線に気づいたのか、またもニタリ顔で、

「あ、今の間接だったねー」

 なんてことを口走った。

「えっ、あ、」

 うろたえすぎだ、私!

「愛いやつよのー。あー、こんな嫁さん欲しいわー」

 そんなことをつぶやくものだから、つい私は言ってしまった。

「じゃあ、……結婚する?」

 お、と動きを止めてこちらを見る香澄。空のボトルが台の上で倒れた。ポンポンと二三度跳ねる。そういえば、外がやけに静かだ。

「……そーだねー、できたらねー」

 言いながら顔をあちら側の壁に向けて、またも香澄は横になった。

「今のセリフ、いいんじゃない? 今度作品で使ってみなよー」

 返しがそっけないと思ったのだろうか、あまり気のない様子でそう付け加えた。

 部屋が、大きく揺れた気がした。

 創作系の仕事をする二人のルームシェアは、いろいろと刺激的だ。

 でも、二人で一緒にいる限り、岸にはずっとたどり着けないのかもしれない。

 渦巻く風の目の中で、なんとなく、私はそんなことを感じていた。
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