掌編・短編小説

[4分で読める] {正義}という言葉の変遷 [短編小説]

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 私は頭を抱えた。

 目の前にはパソコン。ホームページ上、次回の執筆テーマが表示されている。

『正義』

 なんて難しいテーマを出しやがるんだ――。

 このテーマで何か新しいものを書こうとするのは、土台無理な話だろう。古今東西、正義という概念について書かれた論説文は山ほどあるし、そのあり方を問う小説も数えきれない。早い話、正義にまつわるありとあらゆる命題はすでに出尽くしていると言ってもいい。どんなパターンで書いたとしても、いともたやすく前例の存在を指摘されるに違いない。

 ああ、今回も落したかな、と始める前から弱気になるのも無理はなかろう。

 しかし、そもそも書かなければ、百パー落ちるのだ。受かる可能性が少しでもあるならば、書かねばなるまい。よいアイディアは思い浮かばないので、ここは簡潔に、正義という言葉の使われ方についてまとめるとしよう。ありきたりだが仕方ない。

 ――さあ、書くか。



『{正義}という言葉の変遷』

 {正義}という単語は、前時代以前、頻繁に用いられていた。文献を紐解けば、政策議論や裁判においてすらその概念は登場し、中立公的であるはずの機関が{正義}の旗を掲げていた事例もある。しかし、現代では、その概念に内在するある性質のため、{正義}という言葉はすでに時代遅れのものとみなされている。なぜ長い歴史を生きてきたこの概念は、今では滅多に使われなくなってしまったのだろう。本レポートでは、{正義}の持つ性質と問題点、現代における使用法について簡潔にまとめる。

 完全な{正義}が存在しないことは、今や全中学生が習うほど周知されている。ある人にとっては{正義}であることが、別の人にとって{正義}であるとは限らない。また、ある人物の思う{正義}が、常に一貫しているとも限らず、それは状況や時代によって左右される。「Aが{正義}である」との主張は、「私はAが正義であると考えている」ということを示しているにすぎない。これらは{言うまでもない}が、常識の範疇であり、過去においても多くの{賢い}人々はその相対的側面を認識していた。

 しかし、その多数の認識にも関わらず、過去には、この言葉が絶対の真理として効力を持つ場合が存在していた。そのほとんどのケースは扇動目的である。議論や説得の根拠として、{正義}などの価値判断に基づく言葉が使用された経歴があり、また、その論理に踊らされる民が現にいたのである。今となっては、実に{愚か}だと思ってしまう。価値問題と事実問題が区別されないために、そのような事態が発生したと考えられている。

 そこで、特にGM(グローバルメディア。LC=ローカルメディアの対義語で、ネットや公共放送などの情報の垣根が存在しないメディアのこと)において、議論における価値対立と事実認識の対立を明確に区別するため、ある対策が提案された。それが「価値語」の制定である。個々人の価値基準に強く依存する単語や、正確さに欠けるとされる俗称などを総じて価値語と呼び、使用の際は不適記号{}を付けることが推奨されるようになったのだ(不適とは、議論に適さないの意)。{正義}は価値語の一つであり、特に扇動語と呼ばれることもある。

 現在、公共性のある文書には、不適記号が必ず記されている。また、ほとんどの文書作成ソフトには自動で不適記号を付加する機能が備え付けられており、GMでは必須の機能とされている。

 現代においては、社会契約論を原理として政策を決定し、裁判を行うのが{妥当}だとされている。これは価値基準に依存する命題であるため、{正しい}か否かはその時代に依ってしかる{べき}である。しかし、何が議論の基礎となるにせよ、価値語は主張の最も根本部分にのみ用いられる{べき}であり、価値問題についての対立は可能な限り避けることが{賢明}である、との見方が大半を占めている。

 以上をまとめる。{正義}という言葉は古来、その相対的側面が認識されてきたにもかかわらず、しばしば議論や説得過程に登場してきた。しかし、次第にその使われ方が問題視されるようになり、現代では価値語(扇動語)に登録され、不適記号とともに用いることが推奨されるようになった。(特にGMにおける)議論においては、価値語は極力使用しないことが、紛糾の回避と論理の明瞭化につながると考えられている。



『講評』

 現代に至るまでの{正義}という言葉の使われ方、その問題点と提案された解決策を要領よく解説できています。真新しい見方がない点には目をつぶりましょう。しかし、レポートに必要ではない価値語({言うまでもない}{愚か}など)の使用がいくつか見受けられます。レポートで示されている通り、事実問題と価値問題は区別するようにしましょう。このポイントは減点対象となるので、以後注意してください。

 評価:C 文学部准教授 進藤春明

 追記。学籍番号、氏名が記載されていません。単位は不要ですか。
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