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掌編・短編小説

[14分で読める] A Mad Tea-Party [短編小説]

 ←初期の過去作を読み返してみる① →私が書かない小説 ~死亡オチ~
 黄背海にポツンと浮かぶその島が『お茶会』の舞台である。知らぬ人が見ればただの岩礁。しかしその実態は国際法上『島』と認められていながらも、どの国にも支配されることのない、不可侵の聖域である。なぜこのようなただの海上の岩が特別扱いを受けているのだろう。また、見たところ『お茶会』には縁遠い環境だが、まさかここで本当に開催されるのだろうか。誰もが抱くその疑問を頭の中で吟味しながら、ユーゲイナーは他の給仕たちとともにボートを降り、島に上陸した。

 島はそのほとんどの部分が平坦である。かつては岩山だったのをすべて削り取ってしまったらしい。目的は言うまでもなく、ヘリポートの設営である。歩けば端から端まで10分もかからないほどの面積。ユーゲイナーたちは雑談することもなく歩き、島の中心から少し北側に離れた地点に到着した。

 スーツにタイ、チョッキを着た国籍不詳の案内役の男が前に出、何やら地面を調べ始める。と思いきや、地面に生えた取っ手のようなものをつかみ、持ち上げた。進み出て覗いてみると、そこには地下へと続く穴が開いている。――ハッチか。まるで井戸のようだ。ということは、この島の存在意義は地下にあるのだな――。どの給仕も同じことを思ったのだろう。うんうんと頷き感心している様子のものもいる。

「どうぞ。こちらに」

 案内役が片言の共通語で言い、自らハッチを降りていく。給仕たちは特に順番を決めることもなく、スムーズに男の後についていった。ユーゲイナーは一番後ろとなった。前の給仕に続き梯子を降り始める。暗いかと思いきや、案外明るい。井戸の壁面につけられた照明がそこかしこを照らしている。壁は煉瓦でできているらしい。いや、ただそう見えるようにデザインされているだけか。

「閉めて。フタ、閉めて」

 下から声がした。案内役だろう。ハッチの扉を閉めろというその指示には素直に従った。

 梯子を降りること数十秒。床に足が着いた。振り返ると、やはり煉瓦で出来ているように見える10メートルほどの廊下が続く。その先には鉄製の扉があった。先に降りた給仕たちはその扉の前で待機している。案内役がカギを取り出し、鍵穴に入れ、ガチャガチャ回すと、ギギィと音を立て、その扉はゆっくりと開いた――。



 中は普通の飲食店のものとさほど変わらない厨房だった。明るく柔らかい照明、少し広めの通路、調理台、コンロ……。祖国においてホテルの食堂で働いていたユーゲイナーはここにきて、やっと一息つくことができた。これまでの予想しえない環境に心身が緊張しっぱなしだったからだ。少なくともこの厨房では、普段通りに振る舞える。まさに自分の領域。

 ……もっとも、何もかも普段通りに行う、ということはできないだろう。彼には、極秘かつ最重要の任務が与えられている。隙を見て実行しなければならない。数十もの国の命運が彼の挙動にかかっている。意識してしまうと、体が震えた。――いけない。実行まではまだ時間がある。平常心を保て――!

「ワタシここまで。今から準備を。お茶会は15:00から開始。失礼のないように」

 言い残すと、案内役はもと来た道へは戻らず、入ってきたのとは反対側にある扉から出て行った。あそこが客席に通じているのだろう。最後に男がチョッキから取り出した金に光る懐中時計は気になった。びっくりするほど大きかったのだ。

 さて、準備を開始しようか。料理はあらかじめここに積み込まれたものと、給仕たちがもってきたものがある。ケーキやビスケットなどのお菓子類はすでに完成済みで、大きな冷蔵庫と保温室に入っていた。紅茶とコーヒーは給仕たちが持ち寄ったものを、お客さんたちに提供することになる。それぞれの給仕たちが各々の母国から持ってきたもので、どれも高級なものばかりだ。

 ここにいる給仕たちの顔つきを見る限り、全員が別々の国、しかも大陸東部や南部などの比較的小さい国の出身であることがうかがい知れた。自分も同じ。彼らと初めて対面したのはつい昨日のことだが、このことは事前に国から得た情報と合致している。――一体、どのような基準で自分たちは選ばれたのか。主催者はどこまで調査しているのか――。この島での給仕の仕事を引き受けて以来、何度も考えた。もしかすると、自分のすべてを知ったうえで彼らは選んだのではないか。小さな、しかし、即座に否定してしまいたい疑惑が心に浮かんだときなどは、その日の仕事は手につかなかった。――考えても仕方ない。賽はもう投げられているのだ――。

 このお茶会に参加するすべての客人を暗殺する。

 それが、ユーゲイナーに与えられた任務の内容だった。



 扉を開くと別世界が広がっていた。自分が一体どこにいるのか、一瞬忘れてしまいそうになる。まるで屋外の庭園。芝生。色とりどりの薔薇の園。果樹や草花に囲まれたその中に大きなテーブルとイスが並べられている。照明はどのような仕組だろうか。それらしい器具などは見当たらないが、その『部屋』は日に照らされているかのように明るい。遠い昔、まだ幼いころに絵本で読んだ『気違いの茶会』の様子、そっくりであった。――ここは本当に地下なのか? にわかには信じられない気持である。

 すでに他の給仕たちはせっせと動いており、テーブルの上にもクロスや花瓶、ネームプレートなどがセットされていた。幾人かは客の登場を待ち受けるように入口(薔薇で出来たアーチがある)付近に立っている。ひとりぼうっと突っ立ってしまっていたユーゲイナーは、それを見て現実に引き戻され、何事もなかったかのように自分の職務に戻ることにした。

 一人、二人と客人が現れたらしい。厨房で動いていると外の様子は見えないが、他の給仕たちの挙動から知ることができた。――もうそんな時間か。ユーゲイナーは誰にも気づかれぬよう深呼吸をした。思っていたよりも神経が張りつめているようだ。だが、計画に支障はない。にこやかな表情をつくり出し、お客さんたちを出迎えに扉を開けて出て行った。

 片眼鏡をかけた小太りの客はイデオンの総統、背の高い痩せたちょび髭の客はヴェルテンの大統領だろう。情報通りだ。大国のトップが集まるこの茶会。非公式の会合。公では決して相見えることのない超大物たちが、この世間からは隔絶された空間に集結する。トップシークレット中のトップシークレット。そのような場に自分が存在することすら違和感を覚えてしまう。

 なぜ我々のような小国の人間が選ばれたのか。再度、疑問が頭をよぎる。客人たちの国から代表して給仕を選べばよいのではないのか――? 情報統制に問題が生じるためか? いや、それより、他の給仕も知っているはずだ。この『あってはならない会合』の目的を。一体彼らは何も思わなかったのだろうか。知ってなお、何もせずにこの会合が進行するのを、ただ指をくわえて見ていられるのだろうか。――狂っている。客人たちはもちろんのこと、この場にいる全員。この俺も含めて――。



 15:00きっかりに会は始まった。すでに客人12名全員がそろい、席についている。いずれも男性であり、SPや秘書の姿は見られない。給仕たちはテーブルから離れた厨房寄りの壁際に一列に並んでいる。時計を確認した男、イデオンの総統がおもむろに立ち上がり、客たちを見渡したあと、声を張り上げた。

「今日は何のお祝いだ?」

「みんなの、誕生日ではない日のお祝いさ」

 丸顔で長いもみあげが特徴的な男、カロンの総書記が座ったまま応じる。一同、表情が柔らかくなり、笑い声も少し漏れたようだ。どうやら、今のが会合で決まっている挨拶らしい。さあ、気違いたちのお茶会の始まりだ――。

 給仕たちは一礼したのち、めいめいの客人に向かっていく。各客の注文を聞くためだ。実際には、誰がいつ何を飲み、何を食すのかはあらかじめ給仕たちにはわかっているので、この作業は飛ばしても問題はない。しかし、これがルールのようだ。

 お茶やコーヒーを淹れたあとは、やはり壁際に戻り、必要とあらば客人たちの世話をすることになる。今のところ、順調だ。もうすでに仕込みは済んでいる。少し気が和らいだのか、客たちの会話を聞く余裕も出てきた。

「さあて、次はどこでやりますかな?」

 パン、と柏手を打ち、ヴェルテン大統領が水を向ける。それまで各々で近い席の人間と話していた客人たちが、一斉に彼の方へと目線をやった。雑談は終わり、会合の真の目的である次の『開催国』についての話し合いが始まるのだ。

「私のところは準備万端ですよ。いつでもかかってらっしゃい」

 と、イデオン総統。

「ほっほ。勇ましいの。では参りますか、と言いたいところじゃが、わしのところはちょっと手を離せん事情がありましてな、今回はパスするとしようかの」

 白髪、白髭に頭部が覆われているユステル総統が言う。

「ユステルさんのとこは、内側の問題があるから仕方ありませんね。では、私から仕掛けさせていただきましょうか。最近ご無沙汰ですし」

「おお、キタリオンですか! なかなか厄介な相手が来ましたな。こちらも全力でお相手せねばなるまい」

 キタリオン大統領の提案に、イデオン総統が乗ったようだ。

「わたしのところも参加させてもらいましょう。キタリオンのような力は持っていませんが、その分長くお付き合いさせてもらえると思いますよ」

「お、タキオンさんも。構いませんよ。どうぞどうぞ。こういうのは大勢でやるのが楽しいですからね。では、三国入り乱れて、ということになりますかな」

「そういうことですな。我がタキオンは、初めはお二国がやりあうのを観戦させていただきます。そののちにどちらか劣勢なほうに加勢すると見せかけて、裏切ることにしましょう」

「おっと、初っ端裏切る宣言ですか。やることが他の国とは違いますね。さすが謀略のタキオンですなあ」

 タキオンとイデオンの総統同士の話が盛り上がっている。ユーゲイナーは笑顔の仮面をかぶったまま、歯ぎしりをした。これがにこにこと笑いながらやる話か――! 貴様らは痛くもかゆくもないだろうが、犠牲になる人民はどうなる! 少しでも考えたことはあるのか――! 決して届かない想いを抱いて、彼は話の行きつく先に注視した。

「では、他の国々の方は、支援のほどよろしくお願いします。基本的にはイデオン、キタリオンどちらサイドについても構いませんが、お手柔らかにお願いします」

「ふふっ。どちらかを潰してしまっては、元も子もないものなあ」

「そうですよ。これは『平和の祭典』なのですから。国が亡びるほどにやりあっても仕方ないでしょう」

「よく言ったものですな、『平和の祭典』とは。ほれ、ユステルのところのように、内部に問題を抱えておるところは開催することが困難ですからな」

「うるさいわい。他人の国のこと心配しとらんで、自分の面倒見るんじゃな。わしのところも、そろそろ片が付くわい。辛抱するのだ、『戦争クラブ』の面々! 今に見ておれよ!」

 ははは、と今日何度目かの笑い声がパラパラと上がる。強く握りしめすぎたこぶしに気づき、力を緩める努力をする。白手袋をはめていなければとっくに血が滲み出していることだろう。――ああ、はやく時間にならないだろうか! と、思ったその時、一人の客人、ユステルの総統が、ゆっくりと声もなく椅子から崩れ落ちていった。

 瞬間、その場にいる全員の動きが止まった。いち早くイデオン総統が立ち上がり、ユステルの元へと駆け寄る。倒れた彼の上体を起こし、脈を診る。遅れて幾人かの給仕が現場へと急ぐ。ユーゲイナーはその場に立ち尽くしたまま、事の成り行きを見守った。――時間だ! これで残りの貴様らも――!

 ついで倒れたのはイデオン総統だった。タキオン、キタリオン、ビリリオン……と次々に客人たちが死んでいった。

 最後に残ったカロン総書記もおろおろとその場を右往左往し、やがて胸を抑え、崩れ落ちた。これで、全員がこの世を去った。真相を知るものはいない。非公式のこの場で捜査など行われるはずもない。暗殺犯が見つかることはない。

 わけもわからずキョロキョロしているもの、懸命に蘇生を行っているもの、外部と連絡手段を模索しているもの、給仕たちの挙動は様々だ。さすがにこの状況で何もせず突っ立っていると怪しまれるので、ユーゲイナーもその一員に加わった。しかし、その直後、

「全員、その場を動くな!」

 庭園全体に響くほどの声。振り返れば、手にはあの金色の懐中時計。案内役の男が鬼のような形相でガーデンの入り口に立ち、現場を睨め回していた。



 ケーキやビスケットなどのお菓子類に、致死量に至る毒を仕込んでおいた。無色無臭無味の毒。遅効性であるため、食してもその瞬間には違和感は生じないだろう。ボディーチェックをすり抜けるのに多少は苦労を必要としたが、その甲斐はあったようだ。客人どもがそれらに口をつけたのが二、三十分前のこと。時間通りに事が運んだ。結果、各国首脳が死亡。捜査もなく、その真相はお茶会の存在とともに闇に葬られる。そのはずだった――。この男がいなければ!

「よもや『余暇の時間』を過ごしている首脳たちを暗殺しようとは。恐れ多いことをするやつもいるものだな」

 先の口調とはうって変わって、滑らかに共通語を話す案内役の男。表情は相変わらず見るものを縮ませるほど険しいが、その口調にはどこか楽しんでいる調子が含まれている。これでユーゲイナーでなくても気づいただろう。――こいつは、ただの案内役ではない! 何かもっと恐ろしい経歴をもっているに違いない!

「さてさて、現場検証と参りましょうか! 貴様ら給仕ども、いや、容疑者どもは誰一人としてこの場を去ることは許されない。そこの壁に一列に並んでいろ。さあ、早く!」

 指示通りに動く給仕たち。ユーゲイナーも素直に従っておいた。あの男の素性が何者であろうと、仮に捜査の物まねをしようと、とうに目的は達成されたのだ。あとは自分が実行犯であることに気づかれなければ、それでいい。もともと殺害実行後の給仕たちの運命など知れていた。釈放されることはまずないだろう。であれば、口封じに殺されるか。なんにせよ、無事に帰れるとは思っていないのだ。ユーゲイナーも、他の給仕も含めて。ただ、祖国に迷惑をかけるわけにはいかない。それだけがユーゲイナーの唯一の心残りであった。――大丈夫、満足に捜査もできない環境下で、俺が犯人だと奴にわかるはずがない!

 一人一人死体を確かめていく男。とくに死人の口のあたりに付着したものを入念に調べている。匂いを嗅いだり、チョッキのポケットから取り出した紙のようなものを唇のあたりにかざしたり。やがてぬらりと立ち上がると、男は死体を見下ろしたまま誰にともなくぽつりとつぶやいた。

「アバタケのドク……」

 ユーゲイナーの体を衝撃が走り抜けた。唐突に呟かれたその単語、それはまさしく彼が暗殺に用いた毒の名前だったのだ。――バカなッ! わかるはずがない。綿密な科学捜査を行ってでさえ検出困難な毒物だぞ! 死体の外見からわかる特徴など知れている。一体どうやって奴はそれを見抜いたというのだ――! ユーゲイナーは動揺を隠すのに必死だった。

「おやあ、誰も反応を示さない! おかしいなあ、確かに貴様らのなかにこの毒を用いた暗殺者がいるはずなのになあ! さすがだなあ!」

 給仕たちを脅しているかのような張りのある声を発した男は、今度はニタリと片唇をあげ笑みを浮かべた。

「なあ、ユーゲイナー、もとい、ケイジュードくん。ポイオランの諜報員よ」



 ――だめだった! 奴は俺たちの計略など、とうの昔に知っていたのだ。そしてそれを防ごうともせず、高みの見物をしていた! 一体何者だ? いや、もうそれは問題ではない。一番の問題は、祖国ポイオランの――!

「とんでもないことをしてくれたなあ、ケイジュード! えぇ? 大罪だぞ、これは。いくらここが非公式の会合とはいえ、犯人が分かっている以上見過ごすわけにはいかんよなあ? お前の国ポイオランに責任を取ってもらわんとなあ!」

 ユーゲイナーの体が恐怖で凍りついた。怖れていた、最悪の事態が起こってしまった。意識が飛ぶ。目の前は暗転。膝から地に落ちる。顔面を突っ伏す。と、その瞬間、続く連鎖反応のごとく稲妻が彼の脳に走った。彼も全てを理解したのだった。この会合の真の目的を――。腕で体を支え、目を見開き、視線を男に向ける。口は開閉するだけ、声を発することはできなかった。

「おぉ? ようやく気づいたか。お前のとこの諜報機関がそんなに優れているとでも思っていたのか? 『戦争クラブ』の存在とこの非公式の会合を嗅ぎつけられるほど? ありえんだろう。所詮、君らは我々の掌の上で踊っていただけだ」

 もう淡々と語る男の口の動きだけしか視界に入らない。

「『戦争クラブ』の真のメンバーは死んでなどいない。ここに横たわっているのは傀儡に過ぎないのだよ。『戦争クラブ』の加盟国を増やすために使われた、ただの道具なのだ」

 終わった。全て終わった。祖国を守ることも、果てのない戦争を止めることも、もはや叶わないのだ。このトチ狂ったお茶会は、また世界に地獄への一歩を踏み出させるための場でしかなかったのだ。あまりの絶望に涙すら流れなかった。

「申し遅れたようだ。私こそが『戦争クラブ』の発案者であり、リーダーであり、『真の平和を求める者』。――ポイオラン、ようこそ我がワンダーランドへ!」

 男は大きく腕を広げた。その手からはチェーンがこぼれ、先についた大きな懐中時計が左右に揺れる。それを眺めるユーゲイナーの意識は、暗黒の淵へと急速に落ちて行ったのだった。

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