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掌編・短編小説

[10分で読める] 伝説の読み切り漫画 [短編小説]

 ←荒んだ心 →一発ネタの短編小説をいくら書いても、筆力向上には寄与しないのではないか?
 コッコッ。

 ――ハーイ、ドーゾ。

 ガララ。

 ドアを開けた私の視界に入ってきたのは、6人くらいが使用できそうな大きなテーブル。それと、本棚に入らなくなったのだろうか、そのテーブルや床、さらには椅子の上にも乱雑に積まれた大量の漫画雑誌と単行本だった。うわぁ、汚(きたな)、埃まみれ、掃除してなさそう、そして暗(くら)っ……。それが私の抱いた漫研に対するファーストインプレッションである。

「お? 来たね、来たね。ようこそ! 我が漫画研究部へ!」

 ん? 一瞬どこに人がいるのかわからなかった。よく見ると、部室の奥の端のほうに、派手な(ハイビスカスの柄かな?)アロハシャツを着ている小柄な男の姿があった。えい、と手に持っていた本を乱暴に棚に押し込むと、部屋の真ん中あたりを指し、言った。

「どうぞ、座りなよ」

 逡巡した私は、本を踏んでしまわないようそろりそろりと歩き、唯一本が載っていないパイプ椅子に腰かけた。

「ちょっと、待っててねー。部員が一通り揃ったら、オリエンテーション始めるからね」

「は、はい。……あの、この部屋どうしてこんなに暗いんですか?」

 まず思った疑問を口にした。

「ああ、忘れてた。電気つけないとね。目が悪くなっちゃうよね」

 言うと、私の後方を指差したまま、固まってしまった。笑顔のままである。私は、しばし考えさせられた。ああ、私に電気をつけろって言っているのか。立ち上がり、パチンと電源を入れたところで、パッパッと照明がついた。……にしても、新入部員候補にやらせるか?

「いやあ、カーテンが開(ひら)けば部屋の電気をつけなくてもいい時間帯なんだけどね。だけど……、ご覧の通りだから」

 部屋の奥の窓(?)の前には確かにカーテンらしき布が見える。が、その前に積まれた本のせいで、仮にカーテンを開けたとしても、陽の光は満足に入ってはこないだろう。

「ま、そこに座ってテキトーに本でも読んでてよ。多分、20分もしないうちに揃うだろうからさ」

 アロハ男は再び棚のほうを向き、ゴソゴソし始める。はあ、と返事をした私はぐるりと辺りを見渡し、一番近くにあった麻雀漫画(だよね、多分)の一巻を手に取り、パラパラとめくり始めたのだった。

「じゃあ、人数もそろったし、始めようか!」

 え? と気づいたときには、部室にはアロハを入れて4人の男女がそろっていた。うそでしょ、もうそんなに時間たったの……!? 腕時計を見ると、確かに20分くらいは経過している。ちょうど2冊目を読み終えてしまったところであった。

 こんなに時間を忘れてしまったのはいつ振りだろう? 恐るべし、漫画の力……!

 *
 
「オリエンテーションって言っても、うちらが雑談するだけっしょ。プレゼンする資料とかもないし、そもそも紹介するほどの活動もしてないしさ」

 グレーのニットを着た、茶髪のショートヘアの女が髪をいじりながら言う。ちなみに各々の部員はめいめいに漫画をどかし、すでにパイプ椅子に座っていた。

「うーん、そうだねえ。じゃ、何の話する?」

 眼鏡、ネルシャツ、チノパンのオタクファッションに包まれた男が、頬杖ついて問いかける。

「好きな漫画の話とかどうでしょう?」

 ゆるやかなウェーブのかかった長い髪の、カーディガンの女が手をあげて発言した。丁寧語だし、他の部員たちよりも学年が下なのかな。なんとなく、この人が一番話し合いそう、なんて思ってしまった。というか、最もこの部室に雰囲気が合ってない人な気がする。

「よし! じゃあ、やっぱり最初はアレの話をしよう。新入生くんは、とりあえず俺たちの話を聞いててね。あ、何か訊きたいことあったら遠慮なく。あ、一応言っとくけど、俺、部長ね。3年生。名前言っても覚えらんないだろうから、詳しい自己紹介はまた後日ってことで」

 アロハ部長が早口でまくしたてた。何か決められたセリフをしゃべっているみたいに。

 決定権も何も与えられなかった私はただ、はあ、とうなずくしかなかった。

 *

「新入生くんは、【伝説の読み切り漫画】って知ってるかな? いや、きっと知らないだろうね、あまりメジャーではない雑誌に載っていたからね。あれはすごい漫画だったよ。まず初っ端からすごかったよね」

 アロハ部長から雑談とやらがスタートしたようだ。私に対する問いかけが含まれているようにも思えたが、私が発言する間はなかった。オタク男が頬杖をついたまま、引き継ぐ。

「いきなり主人公が殺人鬼と出くわすんだもんなあ。一気に引き込まれたよ。ぼくも、」

「そんでそんで、あっという間に瞬殺! 超かっこいいわ」

 ショートの女が会話に入る。

「そうしておいて、相手のゴールにシュートですもんね」

 ロングの後輩女だ。

「超! エキサイティン! って感じ!」

「やっぱり展開が他の漫画とは違うよね、ぼくは、そう、」

「その後が例の告白シーンだろ? キテたわ、あれは完全に」

「あれね、超大好物! ジュルリ、おっとよだれが」

「うわ、汚ねえ。同意するけど」

「それでトラックに轢かれるんですよね」

「そうそう、誰もが死んだと思うよねえ、そしたらまさかの、」

「100万年後の未来へGOだもんなあ」

「宇宙戦争も始まってしまいますしね! あれには度胆を抜かれました」

「あ、あの、ちょっと待ってください」

 たまらず、私は会話をぶった切ってしまった。部員全員が、何今いいとこなのに、という顔をしてこちらを睨む。――怖い。

「それが【伝説の読み切り漫画】の内容なんですか? それ一体何ページあるんです? というか、そもそも、一つの漫画に要素詰め込みすぎじゃないですか?」

 しん、と場が静まった。あれ? 訊きたいことがあったら訊いていいって、さっき言われたはず。私、間違ったことしてないし、言ってないよね?

「ま、まあ、それはともかく、」

 アロハ部長が慌てたように話を続ける。

「ここで、ラッキースケベイベント! 女子更衣室へバーンと突っ込むわけさ」

「そうそう、ぼくも、ああいうの、」

「はあ、男子はこれだからなあ、ま、わからなくもないんだけど」

「まあ、少年漫画にはつきものですよね」

 あれ、私の問いかけ、完全スルーされた?

「あの描写はエロかったわー」

「でも、あれがまさか伏線になっていたとはね……。先生、超すごすぎ」

「赤魔法と青魔法の覚醒の、ねえ。ああつながるんだーって、ぼくも、びっくり」

「そして最後の締めが八面同時王手。わたし、正直痺れました」

「ラストのコマの迫力はやばかったわ……」

「うんうん、ぼくも、」

「あれ読んでないなんてもったいないよなー」

「そうですね、人生の10分の9くらい損してますよね」

「あれのないうちなんて考えられないわー」

「あ、あの、それって何の雑誌に載っている漫画なんですか? タイトルは? 作者は?」

 メチャクチャな展開だし、筋が通っているとは到底思えない話だったが、こうまでも絶賛されると、どうにも読みたくなってしまう。さっきここで読んだ漫画ですら、時間を忘れて読みふけってしまったのだ。その【伝説の読み切り漫画】なら、どうなるだろう? はまり込んで抜け出せなくなってしまうのでは?

 私自身、実は、これまでそれほど漫画を読んだ経験はなかった。いくつか宝物ともいうべき漫画を所持してはいるが、それ以上別の漫画に手を出すことはなく、中学高校時代は勉強やら部活やらに精を出していた。大学に入って自由な時間ができ、漫画の世界へ本格的に踏み出そうと思ったのが、この部活へ入ろうと思ったきっかけだ。

「え、なに、新入生くん、【伝説の読み切り漫画】に興味あるの?」

 アロハ部長が、いまさらなことを言い出した。わざとらしく、キョトンとした顔で訊いてくる。いやいや、そもそもあんたらがそんなに熱心に会話しているから気になったんでしょうが!

「あれは、オススメだよ。絶対読んだ方がいいよ。ぼくも、あれで、」

「超やばいって、読まなきゃ損損」

「あれを読まないと死んでも死にきれません」

 間髪を入れず、怒涛の推しを喰らい、私は、

「はい、読んでみたいです」

 と答えてしまった。思えばここが運命の分岐点だったのだな、とあとで回想することになろうとは知らずに。

 私の答えを聞いて、部員たちは全員満足そうに笑みを浮かべていた。私としては、その漫画を一刻も早く読みたいのだが、どうして差し出してくれないのだろう(そんなに面白い漫画がこの部室に一冊もないとは絶対に考えられない)。

 と、アロハ部長がおもむろに口を開いた。

「合格だ。君には漫研に入り、俺たちとともに活動する資格がある。自己紹介しよう。俺は部長の松平だ」

「おめでとう、ぼくは、副部長の、」

「うわあ、超うれしい。うち、波田。よろしくね」

「歓迎しますね! 私は久光です」

 今度はこちらがキョトンとする番だった。合格? 資格? 今まで試されていたってこと? でも、何を? 

 一体どういうことなの……!?

 *

 まとめると、こういうことだった。つまり、

「今の漫研の活動内容はね、部員みんなでこの【伝説の読み切り漫画】を創り上げることなんだよ!」

 このアロハ部長のセリフに愕然としたのは私である。

「え、じゃあ、今までの話って、全部、ウソってことですか……?」

「いやいや違うよ、ぼくらが、これから、」

 両手を振り振り、オタク男が否定する。

「創り上げるってこと! だからこれから現実になるのよ!」

 と、ショート女。

「だから、ええと、何さんでしたっけ。とにかく一緒に頑張っていきましょうってことです」

 ロング女もにこやかだ。

「えーと、一言、言わせてもらっていいですか?」

 ぬらりと立ち上がった私は、今どんな表情をしているのだろう、と、そんなことをふと思った。

「あんたらみんな馬鹿ですか!? そんなメチャクチャな漫画描けるわけないでしょう!」

「ええー! さっき読みたいって言ったくせにそれはないでしょ!」

「超ひどい!」

「ぼくたちみんなの力があれば、」

「できないことなどないのです!」

 はあ、とこれは私のため息である。なんか『頭痛が痛い』。なんてところに来てしまったんだ、私は。こんな奴ら(もう先輩方に対する敬意などなかったのだ)が漫研部員だなんて。

 私が考えていたのは、そう、和気あいあいと読んだ漫画、オススメの漫画について話し合う。そして、ときには創作活動などもし、賞なんかに応募したり、学校祭で発表したり、そんな一般的な漫研だった。

「もう、もういいです!」

 久しぶりに大声を出したためか、のどがイガイガする。それでも、私は言わなければならない。こいつらに思い知らせてやらなければならない!

「だいたい、誰がそんな漫画描くんですか? みなさん一作でも漫画を描かれたことあるんですか?」

 全員首を振る。ため息をつく間もなく、言葉が出てくる。

「ふざけないでください! そんなんで超がつくほど破綻している漫画を描けるわけないでしょう! 私だって経験ないですよ! でも、あんたらには、一生かかってもできないってことくらいわかります!」

「いや、だからね、こうやってみんなで意見を出し合って、力を合わせて、ぼくらは、」

「だまらっしゃい! ストーリーすらまともにまとまらないのに、この先があるわけないでしょう!」

 勢いは止まらない。

「もう、いいです! こうなったら私――!」

 みんなの顔が青ざめた。ひきつっている人もいる。

「私が、リーダーになって、この漫画を完成させてみせます!」

 *

 結局、私もノーテンキなこいつらと同類だった。いや、こいつらよりも少しは現実が見えていると自負してはいるのだが……。活動について話したら、友達には馬鹿にされた。うん、それが普通の神経だと思う。私も私自身、どっか狂っているんじゃないかと思っている。

 それでも、一瞬でも、「読んでみたい」と思ってしまったのだ。こいつらの目指す漫画を。満面の笑みで語る、その伝説の漫画を。

 だったら、私たちで描くしかないだろう?

 U大漫画研究部の黄金時代は、ここから始まるのだ――。

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