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掌編・短編小説

[8分で読める] 白狼 [短編小説]

 ←(特に過疎ジャンルの)短編作品のランキングを大きく左右するのは、逆お気に入りユーザー数ではあるまいか ~ポイントが入らず悩んでいる方へ~ →2017/03 読んだ本まとめ
 月の浮かぶ夜。大地は黄光に照らされている。はるか頭上にあるその光源は、それを見るものの心の奥底にある感情を呼び起こす。狼は吠え、あるものは憎悪の心を甦らせ、また別のものは安らぎを覚えていた――。

* * *

 残照が窓から入るころ、爺が狩りから帰ってきた。手には縄があり、その先に痩せ細った鹿が横たわっている。爺は家の中に入り、ため息をこぼした。

「はぁ、わしも歳じゃの。こんだけしか獲れん上に、こうも疲れるとは」

「おかえりなさい」

 私はいそいそと出迎えた。木製の椅子を引き摺り、爺を座らせ、自らはその横に落ち着く。

「私も狩りに連れて行ってくれればいいのに……。そうしたら、もっと丸々太った獲物を捕まえてみせるよ」

 頭に、大きくてかたい手がぽんと置かれる。

「まあまあ、そう焦るな。お前さんがもっと大きくなったら連れて行ってやる。そのときは、期待しておるからな」

 私は頬がゆるむのを感じた。頼られる自分を思い描き、はやく爺の役に立てる日が来ないかな、と心躍らせる。

 ふと、爺の表情が暗くなった。まぶしそうに目を細め、窓の外を見つめる。この時間帯はいつもそうだ。きっと、亡くなった娘のことを思い出しているのだろう。

「よしよし、さあて、ご飯にしようか」

 気が付くと、爺は元に戻っていた。グリグリと私の頭を撫でまわすと、元気よく立ち上がり、鹿のもとへと歩いて行く。悟られぬほどの変化であったが、いつもその様子を眺めている私にはわかる。爺は、あの日からずっと、娘と彼女の夫の記憶にとらわれ続け、いまだに抜け出せないでいるのだ。忌まわしいあの白狼の残像とともに……。

 懐かしそうに、しかし哀しげな様子で娘のことを語る爺を思い出す。

「いつか……、私がきっと、爺の恨みを晴らすからね」

 驚いた顔を見せた爺は、しかし、やがて笑みを浮かべ、言うのだった。

「ああ、頼んだぞ、わが孫よ……!」

 その言葉と笑顔が嬉しくて、私は爺のもとへ駆け寄っていった。

* * *

 ――時間は流れ、やがてそのときは来た。

 満月の夜。風はない。凛とした静けさのみが満ちている。

 私がその目に映すのは、ただ一匹のみ。爺の仇敵。少数の同胞を従え、森から姿を現し、悠々と家畜小屋へと近づいていく。その姿たるや王と呼ぶにふさわしい。

 ふっと、彼は急に立ち止まった。まだターゲットには距離があるはずだが、老いてもさすがに察しはいいようだ。続けざまに周りの奴らも足を止める。彼はすぐさま態勢を沈め、低くうなる。取り巻きどもも周囲を警戒し始める。

 ここまではいい。罠に気づかれるのは仕方ない。予定の範囲内だ。要はここで、私が彼奴を仕留めればいいだけのこと。ただそれだけ。狙うは奴一匹。がっしりとした体格、鋭く太い牙、目が覚めるような美しい毛並み。見た目に違わぬ残虐さをもち、人々からは暴狼王と呼ばれ怖れられていた、――白狼。爺の娘とその婿を殺害した忌敵。

 私は深呼吸をするや、すぐさま陰から飛び出した。もっとも近くの狼が気づき、吠え、構える。気にしない。今や速度は最高。標的へ一直線。やや遅れて白狼が凄む。自分が狙いだと悟ったようだ。

 と、目の前に灰色の物体が突如現れた。別の個体。勢いは殺せない。避けられない。肩から激しくぶつかる。立ちはだかった狼が吹き飛ぶ。痛みは感じない。私も態勢を崩したが、すぐに目標を捕捉、再び駈け出す。そのとき、

「馬鹿者がァ!!」

 重低音があたりに響く。衝撃。衝動。音の主は白狼だった。思わず、速度を落とす。即座に、他の狼に囲まれる。しかし、彼らは動かない。私はぎこちなく立ち止まった。ゆっくりと、白狼が私のほうへ歩み寄る。

 情けない。ただの一吠えで、これほど震える。

「……貴様、俺を殺すつもりでいたのか?」

 まるで金縛りにあったかのようだ。手足が動かない。目だけは彼奴を捉えている。その恐ろしさたるや。月光を反射している黄色い目が私を睨む。なんということか。この目! それだけで私は委縮する。これが狼の王、暴狼王……!

 見くびっていた。老いたる王なぞ、訳はない。実際そう思ったし、爺にもそう伝えた。私に任せろ、と。爺はうなずいてくれた。

 なのに、このザマ。戦いにすらならない。越えられない、圧倒的な差。

「ほう、貴様、あのジジイの……。匂いでわかる」

 白狼は近づいてくる。無防備。無警戒。

「じ、爺のために、お、お、お前を……」

 爺の背中を思い浮かべる。勇気をかき集める。恩を返すのだ。優しく育ててくれた爺のために……!

 瞬間、体が飛んでいた。白狼めがけて。武器を構える。いける。このまま一刺し――。

 気づくと、頭から地面に突っ伏していた。白い毛が散乱している。かすりはしたのだ。肉の感触はなかった。とても致命傷には至らない。

「この歳まで生きてなんだが……、」

 背後から声。しかし、もはや敵意は感じられない。完全に、私の負けだ。

「俺はしぶといのだ。貴様なぞにやられるわけがなかろう」

 地面に突っ伏したまま、振り返ることもままならなかった。もう、気力は湧かない。

「貴様ならわかるだろう。――なあ、俺の娘よ」

 * * *

 いま、なんと?

「な、なにを、言って……」

 のそりのそりと白狼は私の周囲を回り始めた。

「すぐにわかった。その白い体。黄色い目……。まるで俺の生き写しじゃないか」

 違う! 私は、爺の……! 無理やりに前足に力を入れる。

「思えば、久しいな。ジジイに連れ去られてから、どれくらいだ?」

 連れ去られた? 爺に? 馬鹿な。あり得ない。幼いころを思い出す。記憶の中では爺がいつも……。ん? なんだ? 月……? なぜ今、夜空の星が脳裏に浮かぶ? わからない。月がどうしたというのだ?

「覚えているか、俺の目を。満月のようだとヒトは言うが」

 目前には白狼。目。黄色の目。月。満月。安心感。安らぎ。月を見ては感じていた、あの感覚は――。

 では、こいつが本当に、私の……!

 パァン!

 突然、静寂を切り裂く轟音があたりに響いた。

 * * *

「かすっただけ、か……」

 ブツブツつぶやきながら家畜小屋から爺が出てきた。銃を両手で構えているようだ。金具が月明かりを鈍く反射している。

 白狼は不意の一撃をサッとかわしていたらしい。が、胴には赤い一筋が描かれていた。

「貴様、どうやらこのジジイに利用されていたようだな」

 爺を睨みながら白狼が続ける。

「こいつの目的は、親殺しだ。俺の娘である貴様に、俺を殺させることだ……!」

 まさか、そんな――! 爺が私を利用した? いや、復讐は私の意志でやったことだ。爺の娘さんのために。それも、そう仕向けられていただけなのか――!?

「お前には期待していたのじゃがな。ただ殺すだけではつまらんからの」

 なにを言っている、爺? なぜ、笑っている?

「二度目はもうあるまい。こうなるともう仕方ないの」

 爺がこちらに向けて銃を構える。

「せめて親の目の前で死んでくれ」

 再度、銃声が響いた。

 * * *

 痛みはなかった。どこにも何も感じない。それもそのはず。爺の放った銃弾は私には届かなかったのだから。

 白狼が倒れていた。いや、倒れようとする自身を四足で必死に支えている。呼吸が荒い。

 かばったのか、私を――!?

「他人の子を殺しておいて、我が子は庇う、か……」

 爺は三度、銃を構える。狙いは満足に動けないでいる白狼――。

 しかし、その直前、すでに事態は動いていた。周りの狼たちが一斉に爺めがけて飛びかかったのだ。爺は銃を振り回し狼たちを払おうとするも、さすがに分が悪いようだ。アッという前に地面に倒され、二、三の狼たちにのしかかられていた。銃は手の届かない位置にある。

 白狼がゆっくりと爺のほうへ近づいて行った。歩き方はぎくしゃくしている。点々と地面に血の跡も残している。それでも、爺の頭まで来ると、口を大きく開いた。

「ガアアアアァァァァァァァッ!」

 鳴動。大地を震わすほどの大重音。

 威嚇。ただしその迫力は、先ほど私に向けて放ったものとは比べ物にならないほどだった。この世のすべての恐怖を一時にして相手に与える、王たるものの奥義――。

 爺は気を失った。

 * * *

 私はこれまで、自ら何かを選ぶということができなかった。そして、今も――。

 私を利用した爺を殺す、傷を負った白狼を癒す、真の親のもとに帰る。そのどれも、選択することができないでいる。

「言ったろう。俺はしぶとい。これくらいの傷ではくたばらん」

 お供の狼たちが心配するのをよそに、白狼はそう言った。強がりだろうと思う。

 爺。優しかった爺。笑顔が大好きだった爺。いまだに信じられないでいる。

 白狼。私に安らぎを与えてくれた本当の親。憎むべき、爺の敵。

 結局、私は何も選ばず、何もできず、爺のもとを去った。あれから何日も経ったが、爺のいない暮らしに不自由している。一匹狼となった今、頼れるのは自分だけ。

 月が出ていた。やや欠けている。白狼を思い出す。そして同時にあの目と安らぎも。

 同じ月の下、白狼は何を思っているだろう。威張りくさって吠えているのだろうか。爺は何を思っているだろう。心中には癒えぬ憎しみと悔しさがうずまいているのだろうか。

 月を背に、私は森へと入っていった。これからも夜空を見上げるたびに思い出すことだろう。決して、忘れない。忘れてはならない。

 そうして、私は生きていく。
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