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掌編・短編小説

[4分で読める] 古屋敷連続殺人事件 [短編小説]

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 誰もが口を閉ざしていた。無理もないだろう。数時間前までともに酒を飲み、談笑していた人物が惨死体で発見されたのだから。

 大広間には、この屋敷に滞在しているすべての客人と、使用人たちが集まっている。深夜2時を過ぎた頃だろうか。張りつめた空気の中、やがて一人の男が椅子から立ち上がった。

「大友さんが亡くなられたことは、悲しむべきことです。しかし、一方で、これは、れっきとした殺人事件です。思い出すのはつらいかもしれませんが、みなさん、遺体の状況を確認されたと思います。あのようにむごい形で大友さんは殺されたのです。このまま、犯人を放っておくわけにはいきません。犯人を見つけ、報いを受けさせることが、今、大友さんにしてあげられる最大の弔いなのではないでしょうか」

 客人を見渡しながら、男は語った。彼は、皆子老司(みなころうじ)、探偵である。屋敷の主である立町に呼ばれ、今回の集いに参加していた。皆子は、参加者をじっくりと観察し始めた。

 主・立町は、椅子に腰を掛け、腕を組み、下を向きながらも探偵の言葉をかみしめているようだった。あるいは、自分のせいで、大友が殺されたと自分を責めているのかもしれない。

 立町夫人は、夫の様子を気遣いながらも、ときおりハンカチを手にし、口元に当てていた。今や彼女本来の美貌は見る影もない。

 立町の友人である兵頭と箱根は、ぼんやりと探偵のほうを向いたまま、黙ったままでいる。突然のこのような事態に対応できないでいるのだろう。兵頭の息子である則之は、不安そうにあたりをきょろきょろと見回している。

 立町夫人のマネージャーである城崎は、血にまみれたひょっとこのお面をかぶっているため、表情は読めない。お面のみならず、全身血だらけで、片手には先ほど使用されたばかりと思われる、やはり血糊がついた西洋風の剣をぶらさげている。

 皆子、兵頭、箱根、城崎に加え、殺された大友を合わせ、計5名が今回招かれた客人たちであった。使用人は赤間・手塚の2名と、メイドの小崎1名である。



「あ、あの」

 メイドの小崎がおずおずと手をあげた。顔色が悪い。今にも吐き出しそうだ。

 彼女は第一発見者であった。深夜1時30分ごろに大友に部屋を訪ねるように言われていたらしい。しかし、部屋の扉を開けて彼女がまず目にしたものは、切り刻まれた大友の死体であった、というわけだ。一体、そんな時間にどのような用事で、大友は彼女を呼んだのだろう。

「私、体調がすぐれないので、自室で休んでもよろしいでしょうか。大変申し訳ありません、なにもお役に立てなくて……」

「や、気づかなくて申し訳ない。休んでくださって結構です。ただ、その前に、何か犯人につながる手がかりについて思い出せることがあれば、それを伝えていただけないでしょうか」

 探偵皆子は、両手を胸の前で合わせ、小崎にお願いをした。

「ええと、私、実は、部屋に入る前に廊下の角を曲がる人の姿を目撃したんです。その姿について、今ははっきりとは思いだせないのですが、もう少し落ち着けば、何か手がかりになるようなことを思い出すかもしれません」

 メイドは震える手で、自身の体を抱きしめた。

「や、ありがとうございます。それは重要な証拠になりそうです。ただ、今はもう、お部屋に戻られてゆっくりしていてください。後でお尋ねすることもあるでしょうが、そのときはぜひご協力ください。必ずや、私が犯人を見つけ出しますから」

 メイドは一礼し、ふらつきながらも大広間から出て行った。

「すみません、私も少しの間、お手洗いに行ってもよろしいでしょうか」

 城崎が立ち上がりながら言った。その声は、お面によってさえぎられているためか、ややくぐもって聞こえた。手にはやはり大剣があり、今はそれをすぐにでも振り回せるように構えている。

「ええ、構いません。ただ、できるだけ急いで戻ってきてください」

 皆子は答え、城崎は足早に広間を出て行った。

 そして、その十数秒後、女の悲鳴が館内に響き渡った。

「いかん! また何か起こってしまったか!」

 言うが早いか、皆子は駈け出した。他の客人や使用人たちも後に続いてきた。

 廊下に出て、角を曲がり、階段を上った先に使用人たちようの部屋はある。皆子はそこを目指して一目散に走った。息を切らせながらちょうど階段を上り終えたとき、彼は目にした。

 胸元に剣が刺さり、すでに絶命していることが明らかな様子の小崎の姿を。

「何があったんですか、今の悲鳴は! わあっ!」

 客人や使用人たちに遅れること数秒、城崎が現れた。彼は今や、何も手にしていなかった。

「また、人が殺された……」

 皆子はうなだれ、床にひざをついた。

「おのれ、犯人……。絶対に、絶対に、俺がお前を見つけ出してやる!」

 探偵の口から絶叫が迸った。

 殺人鬼による饗宴は、まだ始まったばかりであった。
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